私は、こういうブログというものをしようとは思ってもみなかった。
きっかけは、おととしに亡くなった、ある女性の勧めからなんです。

ちょうど四月の終わりごろに彼女は癌でなくなった。
まったく突然の死でした。
前から体の不調を訴えてはいたけれど、医者嫌いで、そのままやり過ごして手遅れになったのだと病床にいたころの彼女は言っていた。


生前の彼女は、利発で、さばけていて、女であることを負い目に感じさせない男勝りのところがありました。
私の家内が不自由になって、私自身が落ち込んでいた時に、もっと落ち込んでいるはずの彼女が「ブログをやるといい」と教えてくれたんです。
乳癌で入院していた家内と同じ病室だったんですよ。
幸い、家内は左の乳房を切除して事なきを得ました。

でも私は、おっくうがって、今の今までブログなんてやろうと思わなかったんですね。
彼女の三回忌に、一念発起したというわけです。

彼女の名前は「後藤尚子」と言いました。
病床のベッドの名札にそうありました。
「ひさこ」でしょうか「なおこ」と読むのでしょうか?
それは彼女の遺したブログを見て「なおこ」と読むのだと知りました。

なおこさんも本好きで、そのことで私と話が合ったのでした。
「本で癒されることは多い」と、なおこさんは言ってましたっけ。
死を前にして、重い言葉です。
「いろんな作家や、その登場人物になって、ここからどこへでも飛んでいけるの」
とも、言ってました。
同い年くらいか、もう少し私より若いかもしれない彼女は、少し弱気になっていた。
当然ですよね。
死の宣告を受けているのですからね。

私は、毅然と一人で旅立った後藤尚子という女性を、今も鮮明に思い出せます。
たった一か月弱のお付き合いでしたが、後にも先にもあんな立派な女性には、お目にかかったことがございません。

ご縁で、私は彼女が飼っていた雌猫「みすず」ちゃんをもらい受けました。
なんと今年で二十歳になるようです。
老齢ですから、あまり動きませんが、精いっぱいお世話して、なおこさんに報いようと思っています。
misuzu